星を追う子ども

星を追う子ども』。新海誠監督。これで4作目か。『ほしのこえ』『雲の向こう、約束の場所』『秒速5センチメートル』に続く最新作。以下は感想のような走り書き。
これまで、彼の作品に共通して感じられるものがいくつかある。“ここではないどこか”、そして“人とのつながり”。これらが、遠く離れた場所――たとえば異世界、あの世、携帯電話の電波が届かなくなるような遠い宇宙、二度と会うことができなるなるほどの、物理的にも心理的にも離れた所――を仲立ちにして語られる。少なくとも、これまでは少年少女の恋愛関係がその「離れた」場所をつなぎとめるテーマとして、あった。
今回もそういった点であまり変わるものではない。「アガルタ」と呼ばれる地下世界の存在。モリサキは死んだ妻を蘇らせるために、アガルタへ赴く。もっとも、彼は地下世界の力を利用して「世界をよりよい方向へ導く」ことを目的とした団体に属していたのだが。アスナの前に現れた謎の少年・シュンとの出会いから、アガルタとの関わりが始まる。地上に出てきてしまったために命を短く刻んでしまったシュンを蘇らせるためか、あるいは自身の興味からか、アスナも地下世界へと向かう。


驚くことに――これが驚かずにいられるか――この作品の大部分は、これまで高く評価されてきたジブリの作品をほぼなぞっていると言っていい。特に上げられるのは、『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』、そして『ゲド戦記』だろうか……。ご存知のように前3つは宮崎駿の監督作品、そして最後の1つは宮崎吾朗の監督作品。あまりにジブリ作品のモチーフが多用されているので、いったい自分が何を見ているのか分からなくなるほどだ。ジブリになりたいんですか」と。見ている方はたまったものではない。あれもこれも見たことある光景ばかり。ケツのあたりが落ち着かない。「これってあの作品のどこどこだ」と言いたくなって仕方がない。まじかー、あっちゃーこの人何考えてんだ……と。


しかし、後半になって物語は急速に新海誠監督自身の口で語られてきた、ように思う。いわく、シンの「理由なんてない、これが俺の役目なんだ」だとか、「生と死の境目」と言われる大きな穴でアスナが、モリサキに付いて行けず引き上げてしまうところ、また下った川をさかのぼりながら走馬灯の果てに「ああ、わたし、さびしかったんだ」と思い至るところなど。ここにいたって、ハッとさせられるような表現が増えてくる。
そして極め付けは、その究極点へとついに主人公たちが到達してしまう、というシーンだ。これまで異世界との関わりは新海誠監督の作品でもその究極点は語られることなく、憧れや哀しみによってほのめかされるものであった。先に挙げたジブリ作品でさえも、生ける伝説となるナウシカ、彼方に消えるラピュタ、シシ神の殺害など、いわゆる究極点を直接に表したものはない。もちろん、現実ではないものを語るということは、直接的な表現にふさわしくないものだと言ってもいいのだろう。「太陽と死は直視できない」とラ・ロシュフコーが言ったように。
私には、新海監督がどうしてもその直視できないものを表現したくて仕方なかったように思われてならない。“語りえないもの”とはいったい何か。語りえない、と分かっていながらもそう問わずにはいられないものだ。それを彼はとうとう表現してしまった。
ここに表現したこと、あるいはそれ自体が適切だ、間違いだ、といった議論をしたいのではない。彼が、みっともないほどの姿を晒してでも、なんとかしてそこにたどり着こうとしたことが、私にはとても感動的だった、と言いたいのだ。それは青臭いことでもあろう。村の老人がモリサキやシンを「若い」と皮肉ったように。アスナ、モリサキ、シン、この3人を通して彼は、自らの目指した場所へと向かおうとした。宮崎駿の表現を借りてでもなお、彼は自らの言いたいことを最後まで手放さず、語ろうとした。宮崎吾朗氏のように借り物で意地を張るのではなく、借り物を自分の内的必然に従って丁寧に扱い、言いたいことをちゃんと言おうとすること。*1たとえそれが青臭かろうと、稚拙、恥知らずと口さがない者が言おうと、私はこの作品を自らに刻みつけることにしよう。ここにも、こんなことを考えている人がいた、という温かみと、少しばかりの背中を押してくれるような感覚がまだ、私の中に残っている。*2


追記:ラストはよかった。どのように生きていくか、は結構な関心事ではある。振り返って、母に「行ってきます」と。あれで十分だ。よかった。

*1:いやーんこんなこと書いてる…あとからみると恥ずかしいわ。実際、新海監督はそういうことを描きたかったという印象は今でも変わらない。こういうところって共感してしまう、というあたり自分も中二病を患っているんだろうし。いいんじゃないんですか?それに(言い訳がましいけど)どんな方法や内容であれ、作者の本音がにじみ出てる作品は大好物です。

*2:これはおもしろい。「イケますよ… チョロいもんですよ…」ぶはは。http://cinema.intercritique.com/comment.cgi?u=2717&mid=22930 しかし原恵一の『カラフル』は結局見てねえな。