エヴァと、庵野監督について

エヴァンゲリオンに関する覚書の一つ。
以下の記事を見つけた。「庵野秀明監督 : 「ヱヴァ」進行状況を聞かれ立腹 「日プロ大賞」授賞式」
http://mantan-web.jp/2012/05/27/20120527dog00m200006000c.html

庵野監督は、主催者から「『巨神兵東京に現わる』を製作するそうですが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の進行状況は?」と質問されると「ちゃんとやっています。世の中、『ヱヴァンゲリヲン』だけじゃない。やらないといけないこと、やりたいことがたくさんある。本当にやっていますから。失礼な」と声を荒らげた。……「日プロ大賞」は92年にスタートした映画賞で、評価が高いにもかかわらず、他の映画賞で受賞に至らなかった作品、さまざまな理由から興行面でいい結果が出せなかった作品などにスポットを当てているのが特徴。21回目の今年は、庵野監督がプロデュースした「監督失格」(平野勝之監督)が「作品賞」を受賞……

また、パンフレットでの伊瀬茉莉也氏(北上ミドリ役)へのインタビュー。

実は今回の出演には、運命を感じています。高校生のとき『シュガシュガルーン』というアニメに出演して、原作の安野モヨコさんとキャストのみなさんでお食事したときに「旦那の庵野秀明です」と紹介されたんです。まだ怖いもの知らずだった私は、窓辺でワイングラス片手に飲んでた庵野さんに「どんな作品をやられてるんですか?」って話しかけたんですよ。きっと周りは固まったと思います(笑)。庵野さんんはものすごく優しく、「検索してごらんよ。僕、実写も撮ってるからこれあげるね」と、『ラブ&ポップ』のDVDをくださったんですね。それがものすごく嬉しくて、いつか庵野さんといっしょに仕事したいと、ずっと思っていました。

さらに、今回の新作ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Qの感想のひとつ。
「【エヴァQ】エヴァの呪い【ネタバレ有レビュー】」
http://blog.mochrom.jp/blog/888/

もちろん、あのままシンジくんが過剰な自信だけを胸に生きていくのはさすがによろしくない。とはいえ、ここまでシンジくん(僕ら)をフルボッコとは、愛が無さすぎて泣ける。これは庵野監督の意図的な煽りにしか思えない。僕がひねくれている云々以上に、映画そのものに悪意を感じる。暴力的な突き放し方。知らないキャラクターたちが知らない話をして、知らない敵が知らない味方に襲いかかり、知らない結末に向かう。これのどこが娯楽作品だろう……。得たものは「監督はなにやら怒っているようだ」しかなかった。
……
そして、作中にあらわれた「エヴァの呪い」。それは僕にもかかっていたことを知る。


14年間、操縦席に座り、流れる画面に一喜一憂し、謎解きを楽しみ、次回作に期待することでエヴァとの繋がりを感じていた僕に、「もう乗らなくていい。何もしなくていい」とミサトさんに冷たく言い放たれてしまったのだ。結果残ったのは、身体だけ大人になってしまい、劇場に流れる訳のわからない展開にぽかーんする僕だけだった。

次回作までの時間、僕はこの「エヴァの呪い」を解くことに専念するのか、そのまま浸食され、難解な謎解きをあーでもないこーでもないと深読みし、新作に助けを乞うのかわからない。しかしながら、僕ら「新世紀エヴァンゲリオン」リアルタイム世代は、そろそろこの呪いから解かれなきゃならん時期に来ていると、庵野監督に説教喰らった感じがした。

ここでふと思ったことがある。庵野監督は、もうエヴァファンとは話もしたくないのだろう。監督が話をしたいと思うのは、むしろ庵野監督のファンなのだ。(実は、こんなことだってこれまでに何度も指摘されてきたはずなのだ。この10年近くで、指摘されたはずのことはいつのまにか忘れ去られてしまっている)
しかし、庵野監督=エヴァという等式は、否が応にも多くの人に刷り込まれてしまっている。ほかでどんなに良い作品を作ったとしても、「あのエヴァの監督の作品」という視点に始まり、「エヴァと比べて」あるいは「エヴァはちゃんと作ってんのか」という声しか出てはこない。そうやって、エヴァに入れ込み、エヴァからしか語らず、当の製作者すらもエヴァからしか見ようとしない者たちに対して暴力的なまでの表現を庵野監督が行ったとしても、何も不思議ではない。
置いて行かれた?そうだろう。置いて行ったのだから。彼は、おそらく引導を渡しにかかっているのだ。
もうこれからは、エヴァなしの世界に立たなければいけない。そして、庵野監督は「エヴァの監督」ではなく、庵野監督そのものとして評価されたい。だが、これもまた大変に難しいことなのだろう。伊丹十三監督は女シリーズしか売れなかったことを苦にしていたという。富野由悠季監督も機動戦士ガンダムが代表作の筆頭に挙がってしまう。また、押井守監督はさまざまな作品をだし、名前こそ知られるようになったものの、しかし知名度はあくまで一部の人に限られてしまう。どちらを取るか?という話になるのかもしれないし、あるいは、もしかしたら、もっと他の道があるのかもしれない。だが今の時点では、アスカの言うように、エヴァに関わった誰もが「エヴァの呪い」に囚われてしまっているのだ……