『PUNK』感想

長尾謙一郎『PUNK』。これは、まだ分からん。
画風もスッキリし、煽るような描き込みがなくなっている。毒気を抜いたというか。今風、といえばいいのか。同時に発売された『バンさんと彦一』のほうがよほど好きで、連載時に読んでいた頃の季節はいつだったか忘れたが、「このクソ暑いのにこんな脳が煮えるような話読みたくないんだよ!!」と半ば爆笑しながら雑誌を閉じてはまた開いて読む。ついにコミックになったのはありがたいことだ。しかし注目はこの『PUNK』。なんだこれは。


この世界が自分の思い込みで作られていて、そこから脱出して……!!と何のかの。こんな話はさんざん聞いた。しかも主人公が作者??とち狂ったのか?自分をネタにして浮かばれるマンガ家もいれば、凡庸に落ちるマンガ家もいる。もしや作者の私小説になってしまうのか?あるいは自分をネタにすると見せかけているだけか?ただ、目を引くのは主人公の家にやってくるアメリカ人女性シモーナ(シモーネ?)。『おしゃれ手帖』や『ギャラクシー銀座』に出てきそうなエキセントリックさ。これが、今のところ読む者にとって生命線かも知らん。

読み返してみると、なんか面白くなってきた。日常→非日常とか単純になってるわけじゃない。シモーナがトイレから突然イルカを引っ張り出すのはともかく、シモーナを搬入した病院の医者は初めっからおかしなことばかり話しているし、主人公はなぜかそれを真に受けてるじゃないか。それに、終盤でシモーナが指摘することもまた不気味。この世界のおかしさを“悪い奴ら”のトライアングルパワーによるもの、というのだ。皆がブレインウォッシュされていて、イリュージョンを見せられている。あからさまにそう言ってのけることに、不気味さがある。初めから何枚か伏線を折り畳んで挿んでいて、それが何かを起こしそうな予感がする。1巻のラストは、まるでアメリカのSFだか幻想小説だかに出てきそうな。長尾氏のすっとぼけた描き方が、余計に先行きを分からなくさせている。
一方で、こういうマンガは打ち切りになるのを何度も見てきた、とも加えておこう。気をつけよう。そしてもう少し、期待してみよう。



ネットで取りあえず評判をかいつまむ。よくよく評判はいい。いつのまにか彼は人気が出ているのか。作中でも言ってたな。「俺のファンは意外とバランスいいんだよ」。それに対してだか、シモーヌ(シモーネ?)は言う。「ダカラオ前ハイツマデタッテモ三流!!!サブカル止マリデ恵比須顔カヨ!!!」 しかし、まるでヒーイズオンリーザベストジャパニーズマンガカ!と言わんばかりの胸ワクの感想が多い。おめーら他のマンガ読んでねえのか。比較することが重要だというわけではないのだけど、比較でもしてみりゃ作者が何を描こうとしているのか、その輪郭が少しは明確になるだろうってんだ。何でも手放しでほめたりけなしたりすればいいってもんじゃねっつの。おお地震きた。あばば。