夢の匂い

毎晩夢を見る。ほとんどが目覚める時に忘れ去られる夢を記憶にとどめておきたい。何度もそう思った。
その方途の一つは、「匂い」かもしれない。すぐれて印象を残す、目以外の器官、鼻。現実の匂いではなく、夢の中での匂い。感情をかたどる、一つの感覚。幻臭とも、幻覚ともいうのだろう。この匂いは、まるで文章を読んでいる最中に思い出した出来事やわきあがった印象のようなもの。単語や文章を読み返しても蘇ることがなく、当時に読んでいた“そこあたり”の文脈からしか現れてこないもの。感覚は、プルーストの「失われた時を求めて」の回想でも用いられる。もっとも鮮やかで、言葉のように取りこぼすことのないもの。しかし言葉の世界に属せぬがゆえに、回想を十分に言い伝えるも不可能であろう。

テーマについて

形にならないものへの偏愛は、想像以上に多くの人々の口で語られてきた。一度その道に入れば、同じテーマを繰り返し焼き続けていく。私もまた、多分に漏れず、おそらく同じ道へと惹かれる。他とは違う、とうそぶきながら。私はほかの人とは違う、もっと深いテーマを扱うのだ、と。虚栄と関心を取り違えて歩こうとする。何も得られるものはない。もし得心の実感があるとすれば、妄想の中に入るか、あるいは死を迎えるときだけだろう。


ただ、もう一度考え直してみてほしい。そういった具体的な欲望から発せられたにせよ、本当にそれが私を最終的に満足させてくれるものだと思っているのだろうか?……形にした願いは、はかない。自らの思い込みを根から変えてしまおう。――私は私の疑問にいまだ答えていない。いかなる方法を用いてでも、私は私の疑問に答えを与えなければならない。