他者と神話

「外にあるもの」とは「私にないもの」と同義ではないが、この「外にあるもの」がわれわれの目を驚かし、体験の妙を言祝がせる。私はこれを「他者」と呼ぶ。“外”に居るもの。“外”にしか有り得ないもの。外にあるものを題材にしようとしている、という田中の言は非常に興味深いが、私に意外さをもたらすものは他者に限ったことではあるまい。「夢」は意識的な生活とは無縁に、われわれの前に姿を現す。無意識の産生物として現れるものもまた、われわれの目を驚かすことであろう。また、神話とは夢としてわれわれの前に降り立った光景を描き出したものでもないだろうか。一見つながりそうもないものを不思議な親密さによって描き出す神話も他者性を帯びている、ということができるだろう。この2者は、他者性という意味では共通する。ここではあえて以下のように言おう。われわれは常に、他者という神話的状況に立ち会っている、と。