小虫が囁くように

書きたいと思って、この疼きの捌け口を求めてキーボードに向い、はたとその手が止まる。
そのようなことがないだろうか。


私は、常にそうやって自分のかそけき声を欲望によって塗り潰し、そして「ない、ない」とうろたえる。
「ない」のではなく「なくなった」のだ。
己の肥大した欲望によって。


つまるところ、書きたいことがなかった、と自嘲するのだが、それは己が己を御しきれていないことを暴露するようなものだ。
生き恥をさらしているのと同然である。
しかしその欲望など、取るに足らない自己顕示欲の亜型でしかなく、あってもなくてもいいようなものでしかないし、
そんなものにかき消されるようなその時一瞬の思いなど、やはり忘れ去られてしまうような些細な瘡蓋が風に吹かれたのと同じようなものなのだ。


どこまでも小さく、愚かな者よ。
己は己でしかないが、同時にまた取るに足りない小虫の蠢きであることを知らねばならないし、
恐ろしいほどに周りのことについて無知であることも肝に銘じておかねばならない。


ほら、お前の耳の後ろにクマムシが居るよ。
何かささやいているじゃないか。
それがお前なのではないか?