ヒトリゴト:“読む”こと“書く”こと

独り言レベルなので何ともだが、この「書く」という行為は自分にとって少し特別な感触をもっている。

昔から文章を書くのは好きだったのだ。いや、正確に言うと文章が好きだった。
小学校のころは家にあった絵本から世界の歴史や日本の歴史、手塚治虫ブッダ水木しげるの鬼太郎夜話(いわゆる「墓場鬼太郎」)、福音館書店の少年少女古典シリーズみたいなの、とにかく物語と呼べるようなものは片っ端から読んでいた。伝記は例外的に嫌いだった。何といっても親から押し付けられるのが嫌だった。「これがいいから読みなさい!」ってそんなんで読む気になるわけがない。マンガの伝記だったらいくつか読んだけどね。で絵本かなんかのコンクールがあるということをテレビで知って、投稿したい!と昂奮していたのはいいんだけど〆切ギリギリになっても全然進んでいない。その晩は泣きながら書いていたのだ。父親は「もうダメだって。やめな」と投げやりに言い、母親は「せっかく書こうとしているのに何てこと言うの!」ってやたら怒るし、ホント惨めだったなあ。

で、中学生のころはでっかい図書館が校内にあるんだもの、そこに足しげく通ってやっぱりここでも民話、童話を読み倒した。その頃にムーでやってラヴクラフトの特集を読んで震えあがって、法の華が駅前で配っていた本をもらって「天行力ってすごい…」って感動して、「オキーフ」やら「カッコーの巣の上で」やら読んだんだった。その頃になると自意識はむくむくと芽生え始めて自習の時間になると鬱々日記を書いていた。もうこのころから書き始めていたのだ。思うにこれは10年以上やっている計算になる。

高校に入ると、とたんに本は読まなくなった。ビートルズをひたすら流し続け、手塚治虫の文庫本を買いあさり始めた。「うしおととら」や「しっぷうどとう」「六三四の剣」「シャカリキ!」そして「殺し屋1」「ギャラリーフェイク」「多重人格探偵サイコ」「すごいよ!マサルさん」「天才柳沢教授の生活」と買いためて、あのころはそんなにマンガを置くスペースがないから段ボールにぶっ込んでいたのだ。あのころはマンガの量は全然だったが、本当に夢があった。生き生きしていた。ワンピースやハンターハンターもあの頃連載が始まったのだ。楽しかった。しかし、やはり日記を書き続けてもいた。精神状態がオチるとその解決の糸口を探すかのように延々と書いていた。浮き沈みの激しい時期の始まりだった。

大学に入るまで、いや入ってもひたすら立ち読みはしていた。三時間はかけてジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、ヤンジャン、ヤンサン、ヤンマガ、スピリッツ、モーニング、オールマン、スペリオール、いわゆる週刊誌か隔週誌は読んでいた。大学4年までやっていたが、いい加減体力が続かなくなってパタリとやめた。大学三年あたりからブログに映画の感想を書き始め、2,3年はそれが生きがいのようになっていた。勉強なんかそっちのけだ。同居人に罵られても適当な返事をしてノートパソコンにひたすら文章をひねり出していた。気づいたら単位は足りないし、現実世界では何だかうまくいかなくなってしまっているが、もうこれだけは止められない、留年したって映画は見るよ。とばかりに映画評サイトへ執筆の名乗りをあげ、約1年ひと月に一回くらいか…そんなものだがコンスタント(?)に投稿させてもらった。もう何だか分らないけど、この楽しみだけは手放したくない、と必死だった時期のことだ。

今は何をしているか、大学院にやっと入ったのはいいけれど映画を見る時間は自由に作れなくなった。バイトと学校と、って「大学生活が今から始まったみたいだね」なんて言われたこともあるけど、忙殺の一年であった。その代り映画に費やしていた金はマンガにつぎ込まれることになった。去年は本当によく買った。そして今、忙しいさなか水曜日にひっさびさに精神的に調子を崩して、昨日はなんもしないと決め込んで本当になにもしなかった。本を読んでは眠り、マンガを読んでは眠った。
「休みの日をとるのも仕事のうちだよっ」
って言われ、そんなことも忘れていた。なかなかうまくいかないものだ。そして今、修論のことや今後の職として執筆やりたいこととか、自分の文章を今まで人に通用する形で書けなかったこととか、最近になって執筆者の文章の癖がスルッと入るようにわかってきたこととか、少しずつ自分の中で変わってきているものがある。

かくのごとく、文章は読むことに始まって書くこととあいまって自分に絡み付いてきたのだ。そこには含羞、無能の自覚、理由のない自信、もどかしさ、そんなもう甘酸っぱかったりなんだったりといろんなものがこき混ざって自分の中にある。

ああ、文章を書きたい。
もっと生き生きと物事を感じられるようになりたい。もどかしさだけがこんな文章を書かせるのだろうか。少なくともこんな日記何年後かに見たら恥ずかしくて読めねえだろうな。