再度、車谷

阿呆者、と言えば車谷長吉が思い浮かぶ。彼の書き物の題名だ。他にも愚か者であり、白痴群であり、贋世捨人であり。自嘲・自虐というものではない。彼は、自らをそのように思いなして突き詰めるのだろう。しかして、思うに彼の行動や思考は極めて抑鬱的で、あの姿にどうしても私は惹きつけられてしまう。包丁を握りしめて一晩中立ち尽くし、己の生を“尻の穴から油を垂れ流す”と(インガンダルマの話ではなく、彼独特の比喩として)言う。芥川賞に漏れたことを恨みに思い、藁人形に五寸釘を打ち付ける。己が己であることを、まず価値がないものとして踏み躙り、潰す。
このこと。
私には、「どんな人の人生にも意味がある」と言われるよりも遥かに共感を覚える。自分の足元が浮ついてきたとき、また、自らの所在を見失ったとき、私は彼の小説を読む。必ずといってよいほど。まだ彼のを凌ぐ作品に出会ったことは無い。