死骸踏む

ネコの死骸を踏んだ。夜目にはビニール袋かと見えたその白いものが、生き物の形をしていることに気付いた時にはすでに遅かった。バイクが、何か柔らかく固いものを踏んだ感触とともにガタンと揺れる。どうしようもなく脱力させられる。なぜ踏んだ。なぜ死んだ。南無阿弥陀仏を唱えたところで自己満足にしかなるまいが仕方なしに口に上し、あと数キロの道のりを走り抜ける。成仏しろ、そして私は忘れろ。猫が死んでいた。それだけで、一日は色づいた。


たったそれだけのこと、そうだろう。私もそう思う。私を見くびったあの人の言葉、私に向けて愚痴ったあの人の言葉、40代の結婚式を面白可笑しく伝えたあの人の言葉よりも、取るに足らないものだろう。いずれも、変わらぬことだ。自分の身が傷つくこととは違う、他のものが毀損することのどうしようもなさが、背中の下辺り、およそ尾骶骨あたりでじっとこちらに向かって控えている。