家を建てる2

見よう見まねで集めたものは、うち捨てられた廃材からいくらでも手に入った。新聞紙に厚紙、厚手の毛布も手に入り、これで床は何とかなりそうだ。さて、さっそく家を建てよう。俺は、空地の片隅に厚紙を敷き、その上に新聞紙と毛布を重ねた。次は柱だ。しかし柱は立てようにもなかなか立ちそうになかった。風が吹けば倒れる。どれかを支えていたら何かの拍子に別のが倒れる。柱は地面に突き刺すことにした。風をしのぐためには壁がいる。床に使い過ぎた厚紙をはぎとって使う。あとは屋根、彼の家に付いていたような立派なものはどこにも見つからなかった。仕方がなく、とにかく何か雨を防ぐものをと思って、また廃材置き場から拝借してきた板を上に置いた。これで完成だ。彼の家ほどじゃないが、俺の家ができた。他の奴にも見せようと思って近くを探したが、ちょうど飯を探しに出払っていたらしく、誰もいなかった。こんな時にいないのだ。ふと自分が一日中何も食べてなかったことを思い出し、絞るように腹が痛んだ。酔っ払って寝ていた爺さんの酒を一飲みいただいて、その日は早いうちから眠った。
朝目が覚めて気が付くと、家のまわりで声が聞こえた気がした。と思うと入口をから知らない顔がのぞき、外に向かって何か話している。笑ってもいるようだ。その瞬間俺はひどく嫌な予感がして飛び起きた。外に出たとたんに頭がひどく痛み、俺は地面に突っ伏した。若い声が聞こえる。てめえ、ここに誰が家作っていいって言ったんだよ。クズが、ここは俺らのショバだって知らなかったのか?ヒヒヒ、と合わせて嫌らしい笑いが聞こえた。奴だ。ここ最近知り合いが何人か、こいつにひどく痛めつけられたのだ。そいつがとうとう俺のところにやってきた。こんなものはな、と言うやいなや俺の家に向かって蹴りをかます。そこまで強い家じゃない。バダン、バリバリと俺の家が崩れていく。やめろ!頭に血が上り、駆け込んでそいつに飛びかかる。振り返ったそいつが片眉を少し上げてニヤッと笑うと、俺はひどく蹴りあげられた。目の前が大きく揺れる。うずくまる俺は、それ以上動けなかった。後は奴らの思うままだ。他の何人かが俺の作った家をみる間にゴミにしていく。奴らはゴミの山を作ると、これ明日までにかたしとけよ、ヒヒヒ、とゆたゆた歩いて行った。
……ひどいもんだ。あいつらが来るとは、思っちゃいなかった。あんな奴らに潰されるなんて。いや、あんな奴らにすぐ潰されるような家だったんだ。ゴミは俺だ。俺が甘かった。何も考えなかった俺が甘かったんだ。あいつの家みたいなのが欲しいと思わなかったらよかったんだ。それに建築家崩れの言葉を信じなきゃよかったんだ。誰も手伝わなかったあいつらのせいだ。…考える程に腹が立ってくる。そこに、俺よりもいくらか年上のがやってきて言ったんだ。だからいわんこっちゃねえ、やめなって。なんで俺に言わなかったんだよ?おめえは誰にも頼まねえのが一番悪いところだな。こんなゴミ拾って家だなんて、一人合点にもほどがあらあ。何もしなかったくせに、今頃になってそれか……と思うと、俺はこいつを思い切り殴りつけていた。こいつこそ何もできねえクズじゃねえか!