家を建てる(not鈴木志保)1

俺は家を建てようとした。風雨の中でもそれなりにやっていけるし、食い物はゴミ箱を漁っていれば何とかなっていた俺がだ。俺はそれで満足していた。しかし、周りの奴らは家が欲しいとぼやいていた。ついに、知り合いの一人がこつこつと貯めたその金で家を建てた。青空の下で日々を過ごしていた奴らは、その新しい家に招かれる。そこはとてもいい匂いがして、あのゴミの腐った匂いのする住処がまるでバカバカしくなるような、落ち着きのある部屋がたくさんあった。まだろくに食えるような身分じゃないけどな、と彼は苦笑いしたが、少なくとも俺は、こいつを本当にうらやましいと思った。その夜は彼の家に泊めてもらうことになった。体中の垢を洗い落とせ、と言われたが、こればかりはまだ馴染み深くて手放せそうにもなかった。結局俺は天井の大きな居間に転がって寝た。静かにざわめく木々の音と、床に寝ころぶ俺の顔を覗き込むように射しこんでくる月明かりが、この夜ばかりはどうしようもなく俺を締めつけた。明くる朝、彼は仕事に出かけると言って俺たちを外に出し、雑踏の中に駆け込んでいった。俺はまた青空に戻る。それはそれで悪くなかったが、俺はどうしてもあの家が忘れられなかった。家が欲しい。やっぱり金が必要だ。あと、家を建てる腕が要る。俺はなけなしの金をはたいて、家の作り方を知るため、建築家崩れの奴の所に行った。彼は道端に寝転がり、ぼやいた。家を建てるのは簡単だ。土台と、柱と、屋根があればいい。奴はそう言うと、またごろりと俺から背を向けて寝息をたてはじめた。奴は建築家だったという噂だが、なぜ橋の下に居ついているのかさっぱりわからない。それに、金にがめつい奴だ。二、三言しか言わないのに、金を出せとうるさい。しかも金をせびるのは決まって話した後だ。出さない奴がいたら、突然気が狂ったように暴れ出す。奴はそれでも、俺たちみたいな学のない奴よりも物知りだから、何かと相談を受けていたのだ。ともかく土台は必要だな。新聞紙が飛ばされないよう、石で押さえなければいけない。屋根は、あいつの家のような屋根がいい。あれは立派だった。空に向かって堂々と顔を向けるように、煉瓦色の鱗が並んでいた。空を突きさす槍のように、長い針金が据え付けられていた。だけど、柱とは何だ?彼の家にもそんなものは見当たらなかった。そういえば、いつも呑んでいる爺さんの小屋には薄板の裏に釘を刺した後のある廃材が何本も張り付いていた。あれが柱なのか?ともかく、俺は家を建てるために材料を集めることにした。