御陵にて

この腐れた扉を叩くのは誰か。崩れ落ちるのを分かっていながら叩いているのだ。跳ぶが如くに跳ね馬の姿が焼きつき、名だたる武将も散ったそばに、あの着ぐるみ女はいた。先のことを何も知らず、その石段の前で跪きよよと泣いておればいいものを、この世は吾がものとばかりに叩きつける、そのささくれ立った拳で。先のことを知る者はない。出自を知る者はない。扉を壊されることを恐れた狸坊主らは、もてなしもそこそこにめいめい縁側へと逃げ込んでいった。滴るその両の拳をぶるさげ、横丁の傍の古びた着流しを何枚も引っかけたその女は見ようによれば般若にもなり損ねた若布のような萎びた枯葉のようで、誰もが通り過ぎる街灯の脇、今は誰も立ち寄らないような犬の縄張りをひたすら守り続け、芬々たる屎尿の姿をまさに仁王のように保ち続けていたのであった。こまめに見ることもなく、鮫の外履を喰らうた紫陽花が言う。カジキの腸は食い易く、やおら掴むこともできぬ。コノワタの身は食い難く、さすが世の理をはじめとする者に刺し子を伴わせて如何ともせん姿は天晴と鰯面。咲くがごとく、框を踏んだその若布は言うたことには、先のことはわかりゃしない、縋るのはこの黒き御髪とやいとの跡だけよ。見渡す限りの薄野にも、流石にこの繚乱に勝るものはないだろう。安食もなく、刺身もなく、渡りぬ船はあばら家の友。御陵の山にも狸とカジキの踊り合いは夜を徹して続く。