小説3

しかし、朝は同じように生きとし生けるもの全てに降り注ぐ。
昨日の夜の悪夢を、あまりにも強烈な光で覆い尽くし、消し払う。
私はいまだに夜の傷を――傷とも言えないような、内発的な欠陥の発露を――、抱えていた。
明るい場所にでると、傷は後ろめたさを残して実体を失い、おのれの存在を完全に消し去ることにも良心の呵責を残すように、痛みだけを残してじくじくと疼き続ける。
“これは私の痛みだ。だれにも分かち合わせない”
……悲劇のヒーロー気取りなのか。醜い面を下げて、自分がおめおめと生きていることに対する言い訳がましく、抱えている自分がいた。


たどり着いた建物は、重々しい濃灰色に輝いている。入口に吸い込まれるように歩く。
無理にでも笑顔を作ろう。「おはようございます」努めて笑顔を作り、今日も受付のあの子に媚を売り。
内臓が張り裂けそうだった。捩じ切れそうだった。しかしこの感触がいい。己の生きているということを実感させる唯一の感触だ。額にジワリと汗がにじむのが分かる。


「おはようございます、今日も一日よろしくお願いいたします」
上司がじろりと眇める。小虫でも見たかのように、無表情のまま視線を下ろす。「いつもより顔色が悪いね。仕事の邪魔だけはしてくれるなよ」吐き捨てるような挨拶・・・この糞虫、死ねっ・・・いや、糞虫は私だ。死ぬべきも私だ。攻撃性も私に向けるべきだ。
切り刻む程に自分を責め続ける。これが私の日課だった。