缶詰の人

いばらの園をねー、歩いとったんですよ。そしたらね、いきなり目の前で誰かが寝っ転がっとりましてね、ええ、私ゃびっくりしましたよ。だいいちこんなところに私みたいな奇特者以外誰もこんだろうと思ってましたからね。その寝っ転がってる奴ってのが、どう見ても寝とるんですわ。しかもここで明らかに生活をね、しとるんですよ。びっくりしたもんで声も出なんで、じっと見とりましたわ。襲いかかられたら嫌ですからね。ま、面倒事も好かんので引き返しましたら、後ろで「ううーん」言いよるんですわ。またまたぎょっとして、振り向くとね、寝グ○垂れとるんでしょうね、くっさい臭いがプーンてね、ええ。ちょっと腹立ったんですが、ここで腹立ててもなんぼにもなりゃせん。ああ、思い出した、あん時青丹斎っつう薬をね、飲んでおったんです。ありゃ癇の虫にきくと連れから渡され、いばらなんてね、見てる分もかき分けて進んでいく分にも面白いんですが引っかけて怪我するでしょ、血が出るでしょ、私ゃ血が嫌いなんです。案の定足引っ掛けましてね、ズボン破きましてね、ビーって破けて。いばらで破くってどんだけ固いんですかって話です。そこで青丹斎服(の)んだらスーッとね、頭がすっきりする。んだけど、頭ポワーってなって、何も分らんくなりおる。それでフラフラしとって。ちょうど効き目がひき始めたところにあれですわ。今度は頭カーッってなりましてね。リュックから缶詰投げてね、ちょうど顔にあたりまして。「ウギャッ」だかなんだか言いよるんで満足して戻ったっつうわけですわ。いったい何しに行ったんか分らん。あの缶詰ね、連れが買うてきたんですわ。くやしいわな、あれサメの缶詰ちゅうて、こっそり連れが隠しとったもんだから持ってきたのにあんな阿呆にくれてやって、缶切りなくて歯でかじってボロボロになったらええんや。