蒲の穂

山酔亭のおじさんの言葉がじわりと目にしみる。波止場はすっかり暗くなり、私の背中に火が宿る。このまえうっかり外に出て、お父さんも一緒に出かけちゃうぞといったのが運のつき、寂しげに息子がお父さんそれがお節介というもんだよと言われた日にゃ、これまでしてきたことは一体何だったのか、そんなことばかり考える今日この頃。私もすっかり年をとった。せっかくだから今までのまとめ、と散り散りになった子供たちの後に現れた麩のかけら、口にしたらすっかりかさかさで、もういいから秋刀魚でもかっぱらって外に放り投げようと考えていたら、あの親父いきなり外に出てきやがって、大根でしこたま俺を殴りやがる。まったく今日はついてねえ。そんなこんなで街灯の下、こそこそしているジャンパーの奴に気さくに声をかけるとこれまた人違い、まんまと追っ払われて、オッパも一緒に来いと連れて行かれたらしこたま料理を振舞われ、まったく世の中も捨てたもんじゃないといい気になっていた。しかし気がついたらあたりはとっぷり日が暮れて、やけに暗いと思ったら、ススキの陰から狐がポン、もひとつポン。畳も肴もすっかり泥饅頭とにごり水。これは一体夢だったのか、丘に登って眺めてみると、びゅびゅうと吹きさらす秋の風。これじゃ帰るに帰れねえ、蟇の二三ももってかえって放し飼い、わかったわかったお前も一緒に連れて行くからと、ついてきたのは犬猿雉、桃太郎はどこだと聞いたのだ、しかしあいつら答えやしねえ、ただただついてくるばかり、おまけには懐中咥えていっちまう。そろそろお暇しましょうか、こそこそ帰るは泥棒か、おまわりさんも出てきてポン。お縄はくれない紅の花、彼岸花には日が宿り、私もやっとこ塒についた、船の板木のきしむ音、芦の陰から鳥の鳴く、ここがおいらの塒さね、世も更け行くは風流に。