アステルファム

「おい、おま何見てんだ、足りないんだよ、足が2本に目が2個、口が1つに指が10本。全然足りねえよ。おい、聞いてんのかちきしょう」
「まあ待てって、よしおれがお前のために手伝ってやろうじゃないか。(いきなり腕まくりをする。毛むくじゃらの太い腕、人の良さそうな笑みをたたえて、彼の肩に左手を置いてニコニコしている)ここは天国に一番近い場所だ。手が何本あってもいい。お前何本ある?」
「3本ある」
「そうか、それなら十分だ。飯も食えるし追剥だってできる。問題なのは、………だ。わかるか、これが一番問題だ。ためしに一度手を挙げてみろ」
「挙がらない」
「足を見てみろ」
「ない」
「そうだ。お前はいま、頭を失っている。目玉はあるのにだ。これがどういうことかわかるか?」
「おれは鳥なんだ」
「そうだ、よくわかったじゃないか。お前は鳥なんだ。誰よりも大きい、鳥なんだ。お前は人に捕えられ、焼かれて食われた。いま、なにも気付けないのは、別の場所にいるからなんだ」
「分からない。俺は足りないものが欲しい」
「足りないものはない」
「ある」
「ないさ。ためしにこれ(彼のたくましい毛むくじゃらの腕)を両手で持ってみろ。ほら」
(彼は彼の腕を握ったとたんに、消えた。昔から彼がそこにいたあともなかった)