敬語のお願いします。

皆サンは神様です。私は虫けらです。私みたいな人間が皆サンに口をきいていいわけがありません。恐れ多くも人間様に虫けらが話しかけることなんて許される事じゃありません。でもどうしてもお伝えしなければいけないことがあることだってやはりあるんです。そんな時は恐ろしいです。死ぬんじゃないかってくらい怖いです。言葉は100%以上細心を払って選び、それでも許してもらえるかは人間様がご判断なさることですから、もう処刑を待つようなもんです。怖いんです。でも私は出来の悪い糞虫ですので、たまに調子に乗ります。そんな時はもう一巻の終わりだと思います。覚悟します。でも死ぬのは怖いです。私は普段皆サンに敬語を使います。初対面なら敬語を皆サンは使ってくださいます。こんな糞虫に敬語を使ってくださるなんてもったいないことです。でもそのご恩に報いるために私も誠心誠意、己を投げうつ覚悟で話させていただきます。ありがたいことです。申し訳ないことです。でも一番恐ろしいのは、私をご自分といわゆる対等の立場にあると考えておられる方々です。そんな方々は、関係がほぐれてくると見るやため口を使ってこられます。その時私はとてつもなく恐ろしい気分になるのです。この方は、私に敬語を使うな、自分にため口を使って来いと仰っておられるのです。もはや只事ではありません。恐る恐るため口をきくと、その御仁はまさに我が意を得たりとニコリとなさって、とても満足なさって言葉をお続けになるのです。その時の私の心持は言うに恐ろしい、恐怖に今打ちのめされそうになるのです。いつ口を滑らせてこの御仁を激昂させることになるかと思うと、表向き笑った顔で私はダクダクと冷や汗をかくのです。ひどい時には唇や目もとが痙攣を始めます。しかしそうなっては失礼にあたること必至、もし御仁との会話が私にとって快いものでないと御仁に知れたとあらば、私は死ぬ覚悟をせねばなりません。必死に相手を良い気分にさせようと、もう歯の根も合わないまま私は弁明を続けるのです。本当に心根の卑しい生き物なのです。ですから、私にはため口を使うことを強いないでください。私は皆サンとは比べ物にならないくらい下等でいやしい生き物なのです。お話をさせていただくだけで僥倖なのですから。