刃物はシンプルであるほどよい

私は、自分が思っている以上に知能が低いのだろうか。昔から劣等感に敏感なくせに人に即座に言い返すほどの機転がなかった私が今更になって言葉を操ることで人との優越性を取り戻そうと考えるのは納得がいく。知っている生硬な熟語ばかりを使って「頭が良さそう」に見せる。どこまでも自身から離れることのできないまま、記す言葉といえば己の尻尾を追う犬のようなもの。その実情を知ると、今まで自身が築いてきた道のりもことごとく哀れな愚かさに彩られたものだと知れて、空しさが一層重さをもってのしかかる。それはどんなに隠そうとしても些細なことで露見する。
シナプスが人より切れてるんじゃないの?」何気ない言葉が、静かに奥底に響いてくる。だれもが薄々とは感じているが、だれもなかなかはっきりと口にすることのないもの。口火を切ったら、その時次第で禁忌にも自由な罵倒にも堪えうる言葉にもなる。人をえぐる言葉は、シンプルでよい。シンプルであるほど、より確実に突き刺せる。周りには物事を経験上同時に考えることを苦にしない者たちばかりが集まっている。私の物覚えの悪さ、機転の利かなさは彼らを嘆息させ、慣れとともに彼らは寛大になる。――人にはそれぞれ個性がある。この人は別の所で頑張っている。この人が馬鹿なのは仕方のないことだ――しかし、時にぽつりと言葉は漏れ出す。偽らざる思いだからこそ、いたってシンプルで、死ぬほど鋭利な刃物が、まっすぐ深々と突き刺さる。