つみのあがない人

「嫌だ・・・っ。嫌だっ・・・」
胸に深く押し込めた感情が喉から絞り出されるように吐き出される。相手から与えられる全てを拒むような、切実な叫び、それがこの年端もいかない少年の精一杯の声。声なき声。
彼にとっては、それはあがないでもあった。自分が生まれながらにして罪を負うた存在であることを彼ははっきりと認識していた。苦しみは苦しみによって償われるしかない。彼は想像を絶する苦しみを前に、そのことを一瞬にして忘れていた。夜を徹して風に晒され、小刻みに震えるその白い背中には幾多の水滴が貼りつき、幾筋もの汗が薄く骨ばった肌をつたう。
湧き出た地虫が彼の肌を這う。もはや血の気のない薄い肌には、何匹もの百足が喰らいついている。すでに所々が腐ってきているのだ。膿んだ傷は蟲の毒素によって犯され、彼から人の形を急速に奪って行く。後ろ手に縛られた腕は、何年も経って異常に変形し、指先一つ自由に動かすことができなくなっている。頭髪を毟られた頭は、新たに生やすほどの力を得られず、ただ無残にまばらな髪を残す。両肢はあらゆる肉が削げ落ち、ただ皮膚が骨を包むだけの棒きれと化してしまっている。指先など鼠先輩に齧られて骨が見える。眼窩は落ち窪み、すでに失われた視力をどこかに求めようと、時折眼球だけがくりくりと動く。そのたびに乾いた瞼はひび割れ、彼は血の涙を流す。
許されざる存在、そのような言葉があるとすれば彼に与えられたのだろう。この少年の命は永くはない。皆よ、我々の罪負いたもうた若き魂を嘆いてはならない。彼の言葉は悲痛に満ち、耳にした者に罪業を刻みつけるが、それは彼自身にのみ負われるべき罪なのだ。苦しみの刃は彼の背を深く断ち割り、赤々とした生命の証を溢れさす。滴った血は砂利に沁み込み、無用となる。

死に給え、少年よ。

君よこの少年を顧みてはならない。彼の存在を認めてはならない。深く根付いた創(きず)は、君の柔肉に食い込んだ針である。肉がやがて朽ち果てるまで、ただ眼を背けて待ち続けよ。死の後には何も残らぬのだ。